-第八回- Feb..14, 2003

経済ってなかなかわかりづらい。とはいえ、Zephyr発行人としては、少しは世の中のことを理解しておきたい・・・ そこで、経験豊富、知識無尽蔵のさだやんを講師にお招きし、日頃から気になっていた疑問について、お答えいただきます。 -第一回(ユーロ導入、日本の構造改革)-、-第二回(第一回の補講)-、-第三回(携帯電話)-、-第四回(ハイテク)-、-第五回(日本経済の行方)-、第六回(構造改革の行方)-、- 第七回(ペイオフ制度)-


さだやん先生、お久しぶりです。小泉首相誕生の頃は、これで日本も変わる!と期待したのですが、なかなか期待通りには行っていないようです。Zephyr 2周年特別企画で、日本の閉塞状況についてのさだやん先生のご見解をもう少し掘り下げてご説明いただきましょう。
日本の閉塞状況は、まさに最悪としかいえないのですが、米国とは事情が全く異なる。つまり 一方は国民が世界一の貯蓄率を誇っていながら、いまや一銭のカネも使えるムードにない、それほど政府の対応が悪いということですが、米国の場合は、一方では国民が先進国最大の債務率を誇り、彼らの消費は ひたすら住宅景気を頼りとし、いまや極めて非現実的となりつつある住宅ローンに乗っかっているだけの、まことに脆いものであり、これを解決せずして 大幅減税で消費を煽るブッシュの政策は イラク戦争がなくとも破綻に結びつく危険大です。 その意味では日本は、政治家がしっかりすればまだ元に戻せる余裕は持っているといえますが。
Q:アメリカがそれほど危うい状況だというのは、表面的にはなかなかわかりませんね。表面化してからでは手遅れなのかも知れません。翻って日本はまだ立ち直る要素が残っているというお話ですが、日本の人たちは口をそろえて状況はますます悪化していると言います。企業を初め、政府や地方自治体も立ち直る努力を必死になって進めていると思うのですが、表面的に悪化して見えるのは、長年の膿を出しきるまで仕方ないということなのでしょうか?
A: 仰せの通り、日本の状況は、まだ少しも良くなっておりません。大納会の東証平均は18年ぶりの安値でしたが、それでも10.542円、他方現在は、既にこれから2,000円も下がっており、不良債権は増え続けており、個人消費もまったく反応していません。
現状、日本の株価は2000年来、‘確実に’ 2,000円ずつ下がっております。ここで、真水補正三兆円、減税二兆円、といった規模の小手際で、事態がまったく解決されないことは自明であります。
 
すくなくとも この元凶が デフレであり、従って先ず、これを克服しなければならない、ここまでは誰も納得しているのですね。 ところが、その先がいけない。丁度日本発地球メディア"World Reader" で  元国土庁審議官:仲津真治氏が、現在の政府の態度を手際よく纏めておられますが (何か変だな、デフレの論議 (1)(2))一言で言えば、現在、与党幹部には、‘調整インフレを導入せよ’つまり、デフレは貨幣現象だから ガンガン貨幣をヘリコプターからばらまいて物価を吊り上げれば事態は解決する、という理論がはびこっています。更に、インフレ目標を、例えば3パーセントと設定し、国債買いオペを無制限に実施(とりあえず毎月五億円、慶応深尾教授他)せよ、という意見もある。 
とにかく、方法論はいろいろあるが、思い切った策が必要で、現在日銀が行なっている生半可な緩和策では、何も起こらないことは確かのようです。

要は、一人当りでは世界一の貯蓄率を誇ってはいるが、一切財布の紐を開かない国民に政府の断固たる姿勢を伝えるシグナルを送り、先ずはなんとかして実質金利を上昇させて国民にインフレを警戒させ、投資意欲を湧き起せば 物価も上がり始めるであろう、というところです。じゃあ、こんどは本当にガンガン価格があがりだしたらどうするんだ、ということですが、デフレと違ってインフレ制御というのは、過去政府・日銀もいろいろ経験があり、上がり始めたときに公定歩合を適切に操作すれば、ストップできるというのが 大半の意見です。

問題は、不良債権問題を克服しながら、 ターゲットインフレを設定する。。。この‘名案’を如何に実行するか、竹中センセイを始めとして、現在の政府には全く解決方法をもっていないところにあります。
Q:うーん、八方ふさがりの感がありますねえ。それにしても、かつて経験したことのないような状況が出現しているため、決定的な対応策が見つからないということなのでしょうか。
A:中津氏の説明を纏めますと、要は グローバル化現象で、とくに日本は、幾多の工業製品並びにその原料・中間製品などを中国に依存しており、またデイジタル化現象による従来と全く異なった、且つ大規模の新しい流通機構が出来上がっている、更には国際的な規模のNGO やNPOの存在も無視できない。。。ところで、昔のように 自分の国の通貨をいじっくっても全く効果がない、ということですね。而して、彼の結論は、それは、高物価をもたらしている要因が、今なお優位な競争力をもった製造業の主力と、競争力のない産業分野が併存する二重構造にあるなので、先ずこういった矛盾を取り除くことからしか始めねばならない。。。と ま、気が遠くなるようなお話しのようです。が、これが事実でもあります。

要は、不良債権解消、産業の複数構造の是正、ターゲットインフレ、以上の全く異なった要因を、一気に解決する方法はもはや日本のどこにもない、従って‘だましだまし’すべてに段階的に手をつけつつ、順次改良を試みるしかありません。
その為には、一旦日本の銀行や殆どが 米資本。。通称‘ハゲタカ’といわれてはいますが、の軍門に下っても、仕方がないでしょう。この最大の問題である 金融界再編成は、もはや、外圧以外には、解決法はないと思います。

米国のイラク攻撃は、戦費調達のための米国債増発で金利が上昇する。また、テロの再発による消費マインドの低下や原油高で米経済はリセッション(景気後退)に陥る可能性が高くなる(米経済の基盤は、日本などよりは遥かに軟弱である、というのは終始一貫した小生の持論です。何となれば、日本と異なり、米消費層は、住宅ブームとそれに乗っかった借り入れ一本を基盤としており、いわば ‘終始高ゲタを履いて走り回っている’に過ぎないから。) 
そうなれば「株安、債券安、ドル安」のトリプル安に見舞われるリスクは まさに甚大です。 
小生聞くところ、アタック開始は二月最終週のようですが、米国が短期決戦で話を決める能力を持っていることに期待するのみです。
プッシュ大統領の決断は、世界全体に大きな影響を及ぼす訳ですね。
できるなら、武力以外の方法で解決して欲しいなと思います。
どうもありがとうございました。