-第七回- Dec.16, 2001

経済ってなかなかわかりづらい。とはいえ、Zephyr発行人としては、少しは世の中のことを理解しておきたい・・・ そこで、経験豊富、知識無尽蔵のさだやんを講師にお招きし、日頃から気になっていた疑問について、お答えいただきます。 -第一回(ユーロ導入、日本の構造改革)-、-第二回(第一回の補講)-、-第三回(携帯電話)-、-第四回(ハイテク)-、-第五回(日本経済の行方)-、第六回(構造改革の行方)-

今回は、さだやん先生の他にゲストとしてニール・ストーン氏を交えて、ペイオフ制度とその対策について伺ってみました。

Q:ペイオフ解禁が来年4月に迫ってきました。
これは「銀行など預金を取り扱う金融機関が経営破たんした場合、金融機関から集めた保険料によって保険対象となる預金について一定限度まで預金者に払い戻し、そのうえで金融機関を清算する制度をさします。日本では預金者1人あたり元本1000万円までとその利子が支払い保証の上限額」(優しい経済用語の解説http://www.nikkei4946.com/today/0110/03.html) ということですね。
これは、常日頃自分の貯金に異変が起きるなんて考えたこともない私も勉強しないといけませんね。
A:新聞などにペイオフ対策の記事が載るようになり、一般の人もしっかり考えているようですね。私は行き着くところは、自分や家族を見つめ直す作業でもあるのでは、と思います。(ちょっと大袈裟ですかね)
Q:うーん、これはとても重要なことなんですね。
ところで、これは日本独自のシステムなのでしょうか?
それともよその国でも同様な仕組みがあるのでしょうか。
A: 別に日本独自ではありません。各国それなりに 自らのガイドラインを持っているようです。スイスにはないようですが。

日本の制度はアメリカのものを参考に導入されました。
アメリカは金額は10万ドル程度です。

アメリカでは実際には、次のような考え方に基づいています。つまり、銀行の財務内容を一般消費者が理解できないのは世界中同じ、そのために監督、検査を行い、 その結果ペイオフを実施する前に退場させるべき銀行を事前に退場させるというものです。
過去の一例はコンチネンタル・イリノイ銀行のケースですが、つぶすには大きすぎるからと、国有化して救済したのですが、日本でいえば地銀クラスの銀行です。かように、アメリカは大手銀行の破綻によるペイオフは実施していないのです。
わずかに預金規模7〜80億円程度の中小金融機関の一部で行われたに過ぎません。
Q: この制度自体は1970年代にできたわけですが、政府はこれまで「ペイオフを凍結解除すると、預金者に動揺が広がり、ひいては金融システムの危機につながりかねないと判断したため」凍結してきました。
新聞などの論調もペイオフ解禁はこれ以上引き延ばせないという声の大合唱のように思います。

ところが実際に「ペイオフ」を行った場合の混乱の大きさについては想像の域を超えませんよね。というのもアメリカをはじめ、世界には大きな銀行の「ペイオフ」の実例がないと聞きました。日本の場合は、私達国民のほとんどが資産の大半を銀行に預けているわけで、銀行が運用を誤って自分たちの資産が露と消えるなんて考えたこともないわけですから。

実際にペイオフ解禁に向けての動きはみられますか。
A:既に定期預金から普通預金へのシフトや、第二地銀の預金が減少したり、地方公共団体が定期預金から地方債へ資金シフトしたり、それらしい動きはあるようですね。

特に郵便貯金、都市銀行への預金シフトがかなり顕著になってきましたね。一方で限度を超える部分は箪笥預金として増えていくんではないでしょうか。
Q:箪笥預金ですか。銀行も信用されなくなったものですね。
日本経済全体から見ると、全く活用されない、言ってみれば冬眠に入ってしまったお金、あまり歓迎されない動きでしょうね。
さて、このような状況で一体どうしたらよいのか、本当に迷ってしまいます。考え方として、どんなことに注意したらよいのでしょうか。
A:自分の資産を守るためには、保険制度に頼るばかりではいけないと思います。自分なりに調べた上で納得できる方法で運用管理しなければならないと思います。

あとは、親身になって相談に乗ってくれるファイナンシャル・プランナーを選び、その人と相談しながら運用管理するのが良いと思います。
Q:素人にはわからない部分が多いから、専門の知識を持った信頼できる人とよく相談するに越したことはないということですね。
A:ペイオフについては、いろいろな対策を講ずるように勧めているファイナンシャル・プランナーがいるようですが、私は以下のように思います。

1)預け先を分散する

 これは一つの有効な手ですが、5000万円の預金を持っている人に5行に分散することを勧めるのは如何なものかと思います。私は、10百万円にこだわる必要はないのでは、と思います。

 信頼できる銀行を幾つかに絞り、預けるのが良いと思います。もちろん郵貯の活用は、民営化されるのであれば、それまでは有効だとおもいますが。

2)投信でも、マネーマーケット投信(MMF)など、安全性の高い商品を活用する

 これについては、先日破綻したアメリカのエンロン社の社債を組み入れていた日本国内のMMF(マネー・マネージメント・ファンド)の一部が元本割れに陥るという問題が起こりましたので、疑問視する方は多いかもしれません。

 しかし、私は投資信託の目論見書(Prospectus)にどのような格付けの預金や債券に投資できるのか記載されていなかったのか、という疑問を抱きます。もし、記載されていてエンロン社のように格付けが「比較的」低い(9月頃までの話)ものに投資できる商品設計であったならば、そもそも選ぶべきではなかったと思います。
また、目論見書の記載に反し、そのような社債を組み入れていたとしたら、運用会社として信頼できないことになります。いずれにしろ、自分のお金を守るためには、今後そのような点まで確認しなければならないのだと思います。(これを言うと非難を浴びそうですが、、)

私は、やはりMMFは短期格付けが高いものに投資をするのが本来の姿だと思いますし、実際に多くの銀行では、運用しているMMFに格付けが高いものにしか投資をしないという運用ガイドラインを設定しています。

その意味では、格付けの低い日本の銀行に預金を預けるよりは、高格付けの預金・債券にしか投資をしないという信頼度の高いMMFに投資をする方が安全ということになります。

12月4日付けの日経新聞に一部のMMFが元本割れしたことに動揺した投資家が、元本割れしなかった他社のMMFまでも解約しているという記事がありましたが、それは極端な行動だと思います。

3)資産を分散させる
 これからは、特に今の日本のように金利が殆ど付かない環境で運用する場合は、自分の資産のうち、何割がリスクに耐えうる資金で、何割がリスクをとれない資産なのかを見極めなければならないと思います。それは、何割を老後の蓄えとして残すか、また子供に残したいか、などと考えることでもあると思います。それ以外のリスクに耐えうる部分で、納得できるリスクをとり、利回りを高める工夫も必要になるでしょう。その場合は、株式や債券を、預金やMMFと組み合わせて運用することになるでしょう
いやぁ、ストーンさんのアドバイスは実に的確ですね。
結果として、新しい、従来にはなかったタイプの商品の開発、外国への投資シフト、そしてこれを適切にアドバイスする新世代の投資顧問のニーズも増えてくる。。。。ということでしょう。
BSE(牛海綿状脳症)が初めて日本で発生したときに、政府は「風評被害」をことのほか恐れていましたが、今回もペイオフ解禁となると「あの銀行は危ないらしい」といった噂だけで、一般の何も分からない我々国民はサッと預金を引き上げる動きにでてしまうような気がします。

ペイオフ解禁に見られるような制度の変更は、自分のことは自分で責任を持つと言う当たり前のことが前提なのだと思いますが、実際はこれまで何も真剣に考えてこなかったから、いざしっかり考えろといわれてもなかなか難しいですね。とても参考になりました。どうもありがとうございます。