オーロラとラップランドの魅力
それは、全く予期せぬ出現だった。見上げた空のかなたにうっすらと白い雲が浮かんだと思ったら、そのオーロラらしきものはゆるゆるとうごめきながら姿を変え、緑色に輝きを増しながら揺らめくカーテンとなって消え入るようにはかなげに漂っていく。闇の中に姿を隠したかと思うと別の方角から現れ、また消えていく、まるで生き物のよう…

あこがれのオーロラを求めてフィンランドの北極圏ラップランドへ行った。ヘルシンキから飛行機で1時間半。かなり寒いとは予想していたが、イヴァロ空港に降り立った途端に尋常でない寒さを実感。何しろ息を吸い込むと咳き込んでしまうのだから。そこから真っ暗な夜道をバスに揺られること30分。目指すはロシアとの国境近く、北緯68度30分に位置する人口300人程度の小さな町サーリセルカ。ホテルとツーリスト向けショップがいくつか、そしてレストラン、スーパーマーケットなど数軒あるだけのひっそりとした町だ。

ヘルシンキ空港、さすがデザインの国
ヘルシンキ空港で見つけたゆったり空間
サーリセルカの町(↓クリック)
サーリセルカの町

とにかく早くオーロラを見たい。まずはホテルに備えられたオーロラ観測室に行ってみた。この部屋はオーロラが出現しやすい北側に向けて大きく窓を切った真っ暗な部屋で、暖房の効いた室内でオーロラ観測ができることになっている。しばらく窓の外に目を凝らしてみたが、空の暗さには何の変化もない。居合わせたイギリス人の男性が「昨日、一昨日とすばらしいオーロラが見られたが、この様子では今日は無理でしょう」と言う。そんなものかなとほとんど諦めた気分で、夜空を眺めるだけでもいいと思い、着込めるだけ着込んで外へ出てみた。そしてホテルを出たとたんに、うごめく白っぽいかたまり。オーロラだ。数秒のうちに消えて、また別の位置にふわっと現れる・・・

しばらく我を忘れて神秘の世界に浸ったが、気温はマイナス30度、とにかく寒い。どんなに着込んでも20分が限界だろうか。冷え切った手足が痛い。靴の中に貼った使い捨てカイロはほとんど効かない。写真を撮りたいと思うのだが、分厚い手袋をしたままではカメラを扱えず、そうかといって手袋をはずしたら、瞬く間に指が凍えてしまう。カメラ自体も凍り付いて動作がおかしくなる。それでも毎晩、オーロラを求めて寒空の下をさまよった。そしてオーロラは、次の日もまた次の日も場所を変え、時間を変え、幻のように空のかなたからやってきては消えていった。
オーロラの撮影は難しい、そう聞いていたので無理かなと思いながらシャッターを押した一枚やみくもにシャッターを押したら写っていた・・・

オーロラは地上100キロ以上の超高層で発生する。太陽風と地球磁場の相互作用によってエネルギーを得た荷電粒子が希薄に存在する高層大気の原子や分子に衝突して発生する。しかも、磁極をベルト状に取り巻く地磁気緯度65°〜70°の極光帯と呼ばれる限られた地域で主に見ることができる(TDK Science Museumより)。地上100キロは想像以上の高さだ。空の一番高い位置にできる絹雲やいわし雲がやっと10キロ、ジェット機の高度もせいぜい10キロなのだから。

オーロラは黒狐が尻尾を振ったときに雪が蹴散らされて生まれる―ラップランドの言い伝えだ。北緯66度33分から北側の北極圏に位置する広大な森林と高原、ラップランドの魅力はオーロラだけではない。食事がとてもおいしかった。寒い国なので味付けが濃いのではないかと想像していたが、反対に薄味で、決してしつこくないのだ。マッシュポテトの上にのせたトナカイ肉の煮込みはクランベリーやクラウドベリーのソースと一緒に味わうと本当においしい。具だくさんのスープもあっさりして、いくらでも食べられそう。ラップランドは自然も人々も深く吸い込まれていきそうな透明感を漂わせながら私達を惹きつける。言葉少なく控えめな人々のゆったりと静かな振る舞い、笑顔の奥ゆかしさに日頃忘れている懐かしい感覚が蘇ってくる。
犬たちの一生懸命に走る姿が何とも愛らしい走りたくてうずうずするハスキー犬たち(↓クリック)
 カーモス、これは絵はがきから拝借。こんな世界は残念ながら見られなかったけれど
スノーモービルで目指したのがこのトナカイ牧場でした。これは午後2時頃。(↓クリック)
トナカイ牧場

一日、ハスキー犬による犬ぞりのサファリを体験した。二人乗りの橇を6〜8匹の犬がひく。林を抜け、丘を越え、雪原を走る。犬たちは走りたくてうずうずした様子で、 元気よく走る。ちょっと寄り道してみたり、隣の犬にすり寄ってみたりなんとも愛らしい。二人乗りスノーモービルもスリル満点だし、トナカイ牧場でトナカイの橇も体験した。寒気は容赦なしだが、自然の美しさは息を呑むほどだ。カーモスと呼ぶ、太陽が全く地上に顔を出さない日々。ちょうど私達が行った頃はそのカーモスの時期で、太陽が出ない毎日はどんなに暗いかと想像していた。だが、昼間の数時間はうっすらとやわらかな青空が広がり、東の空が淡くピンク色に染まる。白樺林や針葉樹林の一枝一枝が白珊瑚のように雪の結晶を纏い、時折空中をダイヤモンドダストが舞う。午後3時を過ぎると空の青は藍色になり、西の空にほのかな白さを残しながら、やがて夜を迎える。月が出ていないというのに、月明かりに照らされているようだ。一面に降り積もった雪の白さが空までも染めてしまうのだろうか。  (uploaded on Feb.8, 2003))
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