閑中忙あり   [観たり・読んだり・歩いたり] 目次

大和の紅葉狩り

 

  

 

 

  関西で紅葉狩りと言えば、直ちに京都を思い浮かべるであろう。高雄から嵐山、嵯峨野、数ある名庭や神社仏閣、いずれも紅葉に埋まり青空に映える。目をつぶると紅と黄に彩られた景色が次から次へと浮かんでくる。

  しかし埋まるのは紅葉ばかりではない。問題は人である。嵐山から嵯峨野の辺りでは銀座通りなど物の数に入らない。人を見に来たのか、車を見に来たのか、紅葉を見に来たのか分らない。そんなことで最近京都の紅葉狩は敬遠している。それに比べれば、大和の紅葉狩りは近頃混むようになったとはいえ知れている。それでも今年は平城遷都1,300年それなりに人出はあった。今年訪れた大和の紅葉狩りの様子を描いてみる。

 

  (奈良公園)

  紅葉の名所として知られてないが秋になるとなかなか美しい装いを見せてくれる。その一番手は南京ハゼである。東大寺参道の右手広場に南京ハゼの巨木が真っ赤な葉を広げている。青空に映え樹下の鹿と調和していかにも奈良公園の初秋を飾るのに相応しい。困ったことに、近頃このハゼの実を鳥が運んで奥山に持って行くので、だんだんと奥山にハゼが育ってきたようである。奥山は世界遺産、伐採することは許されない。

  南京ハゼが落葉する頃、銀杏の大木があちこちで黄金の葉を広げる。樹下には黄色のジュウタン。そこに鹿が2,3頭,なかなかの絵になる。カメラマンが放列を敷く。困ったことにはパン屑で鹿をおびき寄せる人がいる。

  秋も深まると楓が色着く。なんといっても楓は奥山だ。春日奥山は緑が深い。その中で楓が燃える。春日神社の横から登る道と柳生街道に沿った道がある。山道を登って行くと、次々と紅葉が現われところどころ木漏れ陽に、楓の小枝が照り映えてそれは美しい。

 

  (正暦寺)

  東の日光、西の正暦寺と言われている。規模こそ比べようもなく小ぶりであるが、山間にひっそり佇むこの寺の美しさは格別である。しかし近年その美しさが知られ、すっかり有名になり、車が押し寄せるようになってしまった。静寂が売りのこの寺の良さが半分失われてしまった。

  ここの楓は繊細で、細い枝が狭い谷間に伸びている。そして山間を流れている細い小川と塔頭の白い壁が見事に調和して一幅の絵となっている。

  ここは日本酒の発祥の地と云うことである。

 

  (当麻寺)

  ボタンで有名な当麻寺は、紅葉でもなかなか捨てがたいものがある。奥の院に上る参道は紅葉のトンネルとジュウタンで真っ赤に染まる。石段を上り振り返ると塔頭が紅葉の間に埋まって見える。大和随一と言われる双頭も。

  しかしなんといってもこの寺の売りは西南院の二本の楓の大木であろう。池越えの小高い丘に二本の楓の大木がある。赤と黄が競い合うように池に向かって伸びている。まことに見事な眺めと言えよう。背景の二上の山は秋の陽を受けてさびしげである。

 

  (長谷寺)

  長谷寺も当麻と並んでボタンで有名だが、この寺の新緑と桜、そして紅葉もまた素晴らしい。花の寺に相応しいものがある。

  本堂に上る屋根つきの階段を、息せき切って登り、清水寺のようなバルコニーに立つと、素晴らし景観が展開される。全国観音様の総本山、参詣人も後を絶たない。谷は紅葉で埋まる。その向こうに五重塔が見える。桜の頃も美しいが紅葉もまた素晴らしい。ところどころに大銀杏が金色に輝き景観を引き締めている。

 

  (浄瑠璃寺)

  紅葉の名勝という程ではないが、池を挟んでの本堂、三重塔、それを囲む芒や楓、秋の風情が良く出ている。以前はこの付近柿の大木が沢山あり,青空に映えてそれは見事であった。人里離れたこの山寺も、秋風が吹くころ訪れると、一抹の寂しさを感じさせてくれる。

 

  (秋篠寺)

  寺の名前に秋という字が入っているが、紅葉はほとんど見られない。参道はうっそうとした森林で、苔が敷き詰められている。ところどころ紅葉が彩りを添えている。

  この寺のお目当ては伎芸天。うっすらと浮かべる微笑みに魅せられる。珍しく観光バスが2台止まっていた。    

 

  (談山神社)

  毎日紅葉便りを見ていると、ぼつぼつ談山神社も見ごろである。ここは紅葉の名所として知られているので、車が押し寄せてくる。少し早めに家を出た。山道を登って行くと紅葉が色づいている。

  谷越えの談山神社は紅に燃えている。長い石段を登って行く。紅葉の下で弁当を広げている家族がいる。カメラマンが十三重塔を囲む。バックの紅葉に映え絶好のアングル。この神社は言うまでもなく、中大兄皇子と藤原鎌足が大化の改新の謀議を凝らしたところ。背後の登山道を登るとその場所に出るが、訪れ人は少ない。 

 

  今年は夏から冬にかけて天候不順の為紅葉は危ぶまれていた。しかし急速に冷えたためか、色づきが大変よく紅葉狩りは存分に楽しめた。ただ残念なことに、いつも最後にしている春日奥山が意外に早く、落ち葉を見るにとどまってしまった。写真を整理しながら、早くも花のシーズンに思いをはせるこの頃である。

                    (2011.01)