閑中忙あり [観たり・読んだり・歩いたり] | 目次 |
動物好きな少年が、夢かなってゾウ使いになる話。少年を演ずるのは先のカンヌ映画祭において、「誰も知らない」で主演男優賞を射とめた柳楽君。この映画でも堂々の演技、ますます将来が嘱望される。 映画を見て舞台になった私設の動物園のことや、ゾウ使いの訓練学校のことをもっと知りたくなり、原作を求めて本屋に行った。映画化されたせいか、店頭には関連する図書四種類がおかれていた。その中から原作となった「ちび象ランディと星になった少年」を求めてきた。 少年の母親は元ファッションモデルで大変な動物好き。モデルで稼いだお金で私設の動物園を千葉の東金につくった。やがて動物園は大きくなり、市原の「ゾウの国」に移った。そして現在勝浦に「ゾウの楽園」を建設中である。 この一家には四人の子供がいるが、長男哲夢は大の動物好きで、ことにゾウの飼育、調教に興味を持っている。ある日母親が突然ゾウを買うことになったと言い、メスゾウを一頭手に入れた。少年はたちまちゾウと仲良くなりゾウと話が出来るようになった。その後更に子供のゾウを一頭手に入れた。子ゾウの飼育係りは少年、熱心に調教するが子ゾウは言うことをきかない。 少年は本格的にゾウの調教に取り組むためにタイのゾウ学校に行くことになった。ここで少年は親から分かれたばかりの子ゾウの飼育・調教を担当させられる。子ゾウは最初なかなか言うことを聞かない。優しく接するので馬鹿にされ、相手にされずタイの少年達の失笑を買ってしまう。それでも少年は先生の教えの通り、心を鬼にして子ゾウを厳しく躾ていく。やがて子ゾウは少年の言うことをきくようになったばかりか、少年の命まで救ってくれた。 帰国後少年はこの厳しい調教を取り入れた。母親はそれを見てイジメだと猛反対する。しかし少年は本場タイの仕込みを貫き通した。やがてゾウもすっかり少年の言うことを聞くようになり、ゾウとの対話もスムースになった。 そう言えばNHKの朝の連ドラ「ファイト」でも、主人公の女の子が馬にやさしく接していたら言うことを聞かない。調教師にもっと厳しく接しないと馬になめられてしまうと言われるところがある。 やがて少年はゾウを自由に操るようになり、ゾウの数も増え、ショーもこなせるようになった。評判を聞いて、映画のロケに使われたり、ショーの出演を依頼されたり、なかなかの盛況ぶり。 ある日少年は所用でバイクに乗って出かけた。不幸が突然襲った。少年は猫をよけようとした瞬間トラックに激突した。このとき動物園のゾウたちがいっせいに鼻を上げ、甲高い泣き声を上げた。これは恐らく映画の脚色であろう。しかし原作を読むと、出棺の際に、四頭のゾウが一斉に鳴き、これに呼応して園内の動物達も一斉に悲鳴のような鳴き声をあげたと書いてある。そして子ゾウは霊柩車に近づき、鼻先で少年の棺の周りをまさぐり、もう一度鼻を高々と上げて鳴いたという。 子ゾウは情緒不安定になり、食事もろくにとらず、ショーにも出演しなかったそうである。 ゾウは高い知能を持っている。そして優れた記憶力があり、人間のように喜びや悲しみといった感情もある。先般のインド洋大津波のとき、スリランカの海岸にいたゾウは津波到着の一時間前に全員内陸に避難して、一頭の被害もなかったそうだ。 先日天王寺の動物園で久し振りにゾウを見た。思わずゾウさんの歌が浮かんできた。近頃遊園地が閉鎖され動物園も減ってきた。残念ながらゾウに接する機会も少なくなってしまった。 ゾウは巨体ながら優しい動物である。現在日本にいるアジアゾウは六十四頭、この市原のゾウ園に八頭いるそうだ。各施設は長命のゾウの老後の処置に困っている。少年はこれらの年老いたゾウの余生を恵まれた自然の中で過ごさせてやりたいと予ねてより考えていた。今その夢は母親によって実現されようとしている。勝浦にゾウの楽園の建設が進められている。 最近どこでも子供の躾には困っている。昔は学校では修身の時間があった。家でも箸の上げ下ろしから、寝床の入り方まで厳しく躾たものだ。ゾウの調教を見ていると、あの巨体を、小さな子が良く躾けられると感心させられる。基本は飴と鞭である。飴はバナナとか人参である。我々子供の頃はやはり食べ物が躾の武器であった。しかしゾウと違い、今は昔と同じようにはいかない。第一今の子育てを見ていると、子供が食べないのを何とか食べさせようと親は苦労している。子供が食べると、いい子いい子とほめている。子供の好きなものは何かと考え、それを与えようとする。遂には学校給食まで文句をつける。偏食、肥満と躾どころでなく、健康問題になってくる。 今の世の中、およそ食べ物は躾の武器にならない。着る物もどちらかと言えば親が着せ替え人形と間違えている。次第にゲーム機、長ずれば車を買い与えることになる。子供には好きなことを自由にやらせれば良いと嘯いている。さりとて厳しく育てると言っても、今の世の中、何が飴で何が鞭だか分からなくなってしまった。 近頃のペット・ブーム、躾の悪い犬や猫がうろうろしている。犬好きのフランスやイギリス等では、大変厳しく躾けるそうだが。ゾウの調教を見てつくづく考えさせられてしまう。 この映画を観てもう一つ思うことは、少年が無類のゾウ好きでゾウに大変愛情を持っていることである。ことに子ゾウは買い求めたときから、つまり親離れしたときから親身になって育ててきて、話が通じるようになっている。その触れ合いが大切なのであろう。 ( 2005.11 ) |