閑中忙あり   [観たり・読んだり・歩いたり] 目次
          

武士の家計簿

 

          

                  

  加賀藩において、代々御算用者を務める猪山家の話。通常時代劇の話というと、刀が物言う世界が描かれることが多い。しかしこの映画は武器が刀でなくて、そろばんを持つところが珍しい。しかもこれは実話である。地元石川では全国に先駆けて上映され大変な評判を呼んだそうである。

  主人公の猪山家は代々御算用係、そろばん一筋で生きてきた。ところが藩の財政が悪化して、その建て直しという重責を担うことになった。猪山は収入もそこそこ、楽に暮らせるはずであった。ところが借金が収入を上回り、また当時の金利が高かったので、どんどん増えていった。

  なぜそんな借金がかさむのだろうか。それは決して贅沢三昧の生活を送っていたのではない。当時の武士特有の身分費用が重なったからである。猪山家はその身分費用が抑えきれずに、借金を重ねてきたのである。

 

  猪山家は藩の経理を預かる重要な役柄、まずもって自らを正さなくてはならない。しかしその借金は莫大なものに上っている。経費を切り詰めるばかりでは到底及ばない。当主は決心した。家財を売り払うより仕方がない。家族にその旨を告げる。一同それだけは残しておいてほしいと涙ながらに訴えるが、当主はにべなくそれを断る。父のお宝は茶道具のなつめ、母のお宝は友禅の小袖・・・・。いずれも家族が大事にしていたものばかり。まったく受け付けず駄目の一言で断られる。

 

  最近新品同様のブランド品のリサイクルしたものが極端な安値で売られている。昔は物を大切にしたからセコでも高く売れた。今では引っ越し荷物で不要なものを整理してもらうと200万円はかかるという。

  当主はもう一つの約束をさせた。それは家計簿をつけるということである。家計簿をつけることによってどんなに節約が生まれるか。この家計簿は今日でも残っているそうである。

  それでも実行となると大変だ。親戚縁者を集めてのパーテイ、睨み鯛に鯛の絵を描いたものを並べる。・・・・

  しかし当主は生活面ではまことに厳しいが、反面家族思いで、愛情に満ちた暮らしぶりである。それゆえこの貧しさに何とか耐えてきたのである。

 

  この借金まみれの家に、どこかの国に似ていないか。いや似て非なるものがある。天文学的数字の借金大国、しかし政府も国民も一向に借金を減らそうと真剣に考えない。借金が増えても、それで消費が刺激され、やがて景気が良くなり、借金を返済できると信じている。収入から支出をさし引いた赤字は国債で穴埋めすればよい。税金を増やして返済する話には国民も一向に乗ってこない。国も増税は評判が悪く選挙に負けるから触らないでおこうとする。

  最近国会で議員の歳費を減らそうという声がぼつぼつ出始めてきた。一部地方において実施に踏み切ったところもある。企業も定期昇給以外は賃上げストップのところが大勢を占めるようになってきた。しかしこんな事では到底追いつかない。

 

  田中角栄が日本列島改造論をぶち上げたころから、随分無駄な投資が多かった。何しろ日本はカリフォルニア一州の広さしかないのに、100近くの飛行場があり、一日に2,3便しか飛ばないので大赤字を出して廃港に追い込まれようとしているところが沢山ある。巨大ダム、高速道路、海上大橋、飛行場、そこに役人の天下り・・・借金は増えるばかり。

  何か無駄が多いのではないか。隠し蔵があるのではないのか。蓮舫議員が委員会で仕分けと称し厳しく追及した。然し結果は2兆円ばかり出たのに過ぎなかった。ベテラン議員や官僚にはかなわない。近頃外国からの目も厳しくなってきた。ムーディーズが多額の赤字国債を見て、日本の評価をワンランク下げてしまった。日本も猪山氏のように、思い切って借金減らしに手を付けないと、さらに借金が増え、かってGDP世界2位を誇っていた栄光も失われてしまうであろう。

 

  経理という仕事は組織にとって極めて重要な仕事である。役所にとっても、会社にとっても、団体にとっても。それは組織の効率性を計数的に把握して効率経営の基礎を作るのに貢献する。同時に組織に不正が生じないようにチエックするという重要な役割がある。

 しかしこの重要な部署に案外人気がない。遅くまで残業している姿を思い浮かべるのか。

一方営業というとゴルフや飲食での接待と華やかである。経理では数字が合って当たり前だが、営業では売り上げが伸びれば評判が上がる。

  しかし、最近聞いた話であるが、近頃の若い社員は必ずしも営業職を好まないようだ。お客さんのご機嫌を取って、ゴルフや料亭接待はあまり乗り気がしないという人が結構多いそうだ。一体何をやりたいのか。メールの交換をしてネットを眺めているのか。困った時代になったものだ。

 

                         ( 2011.03 )