閑中忙あり   [観たり・読んだり・歩いたり] 目次

日本はどう報じられているか

             ―― 石沢靖冶

  日本人は島国育ちの所為か、他人の眼を気にし過ぎるところがある。反面情報に乏しく、他人からどう見られているか正しく理解していない所がある。石沢氏が日本と関係が深い国の情報に明るい人に依頼して、日本がどう報じられているか纏めている。氏はハーバード大学大学院を終了後、ワシントン・ポストなどを経て、現在学習院女子大学教授を勤めている。

 

(イギリス)

  日本では第2次世界大戦で、イギリスと戦った事を知らない人が多い。イギリス人は日本が大戦中、タイ、ビルマ国境で、イギリス人捕虜6万人を苛酷な労働に従事させて、多数の死者を出したことを今でも恨みに思っている。イギリスではこのことを繰り返し報道して、反日ムードをあおっている。日本人はロシアのことしか言わないけれども。

  イギリスにとって更に大問題なのは、緒戦の敗北である。七つの海を支配した大英帝国が、東洋の小国に敗れた。シンガポールの陥落はその象徴的出来事であった。この事によってイギリスの植民地支配は終わったのだ。

  日本といえばやはり経済問題であろう。高度成長期には「日本の経済侵略」「日本に学べ」が主流だったが、バブル崩壊後は様々の角度から、不況にもがく日本の姿を紹介している。

  小泉首相の登板にはかなりの期待を持って報じられていたが、やがて抵抗勢力によって挫折されそうだに変わって来た。

 

(フランス)

  フランスの日本人観は、ウサギ小屋に住むワーカーホリックに見られる様に、エコノミックアニマルとして映っている。しかしこれは日本人が勤勉であるとの羨望の裏返しでもある。そしてその働きの成果は日本人のブランド品を買う行列として紹介されている。

  日仏のイメージは、文化のフランス、経済の日本として捉えられてきた。殊にシラク大統領が日本の伝統芸能への精通振りはこのイメージを増幅させた。

  一方日本の方はトヨタ、ソニー等の進出により経済大国のイメージが定着した。当初は反日的であったフランスだったが、失業率の高いフランスにとって高効率の日本企業に学ぶ点も多く、歓迎すべきものに変わってきた。

  そしてルノーと日産の提携、カルフールなどの日本上陸、フランスは日本に対し自信を持った。そして日本経済の沈滞の中にあって、中国シフトが始まった。少し前までは「第三の大国」「進歩の怪物」などと怖れられていたが、今世紀に入っての日本観はより的確になってきた。

  フランスが日本に期待しているもう一つの眼としてアメリカがある。アメリカの一極集中の牽制役としての役割である。シラク大統領が日本の国連安保理常任理事国入りを支持してきた所以がある。

 

(ドイツ)

  明治以来、日本の知識人はドイツの文化や技術に畏敬の念を抱いてきた。しかしドイツが日本に対し同じぐらい関心を持ったことは一度もない。

  ドイツと同じく敗戦国の日本が素晴らしい発展を遂げたことに関心を示したのは、ドイツの財界であった。彼等が感心したのは日本の働く者の勤勉さと、組織に対するロイヤリティの高さであった。これを学ぶ為にドイツの経営者は、続々日本に視察団を派遣した。日本の自動車なんて馬鹿にしていたのが、いつの間にか日本が優位に立ってきた。

  しかし日本のバブルは崩壊してしまった。日本は巨大な債務を抱え,事実上銀行は倒産している。更に問題なのは日本政府のGDPに対する債務の比率が140%を超えて極めて危機状態にあることである。EU加盟の条件としてこの比率が60%であることを見れば、これは正に大問題である。ドイツの日本評は手厳しい。その金融再生プログラムは評価されていない。日本の政治システムには能力がないと言っている。

 

(アメリカ)

  小泉首相が誕生し、ブッシュ大統領との蜜月関係が報ぜられ、日米同盟を軸としての日米一体感が世界中に印象づけられた。

  戦後の日米関係は、教師と生徒と言う構造が定着していた。それが70年代後半から日本のアメリカ進出が急で、日米経済摩擦が激しく、日本パッシング報道が盛んになった。それは政治、経済の分野にとどまらず文化の分野まで及んできた。

  しかし90年代に入り、日本のバブル崩壊の痛手が大きいと言うことがわかり、日本脅威論は消え、日本パッシングから、淡々と主要問題をリポートするようになった。

  小泉首相の改革路線は当初大いなる期待を持って見守られたが、その後の進展を見て失望した。とりわけ銀行の不良債権処理問題が注目されている。

  最後にアメリカがどうしても譲らないのは日本の戦争責任についての報道である。靖国神社問題、教科書問題、基本的には中国、韓国と変わりはない。小泉首相の靖国参拝も大きく取り上げられた。

 

 

  まだまだレポートは続く。アラブ諸国は殆ど日本に関心がない。広島、長崎の原爆の話が時折反米プロパガンダに使われている。中国、韓国は我々直接見聞きしているので省略する。

 

  日本は先の大戦で徹底的に破壊された。その中から立ち上がり、ひたすら復興、再建の道を走った。世界各国はその力に驚き、日本に学べと言う論調が支配的になった。日本人の勤勉さ、組織に対する忠誠心は驚異的であった。

  やがて日本が世界第二の工業国に成長、その安価で高品質の製品が世界の隅々までいきわたるようになった。各国の論調は日本叩きに変わった。しかし日本企業が世界各地に進出するようになると、日本のマネージメントとは現地で概ね好評であった。そしてバブル崩壊、不毛の十年、各国の見方は冷やかである。日本経済は立ち直れるのか。構造改革を引っさげ登場した小泉政権を各国は危惧と期待をこめて見守った。しかし改革は思ったほどには進まない。各国は最早日本は我々が学ぶ師ではないという論調に変わってきた。

  一国のイメージはその国の元首によってつくられる。フランスのシラク大統領は親日家として、文化人としてのイメージが強かった。サルコジ大統領には何となく親近感を持ちにくい。洞爺湖サミットに美人の奥さんを同伴しなかった。福田総理との個別の首脳会談に出席しなかった。・・・・

  今回のサミットは事前の大騒ぎの割には地味なイメージで終わっている。福田首相の人柄の故か。中曽根、小泉の両氏はそれなりのパフォーマンスがあったが。

 

  他国がどう見ようと自由であるが、明らかな誤解を放置しておくのは残念である。日本のジャーナリズムの場合集団で記事を作成する事が多い。外国、ことにアメリカでは個人の署名記事が多い。したがってその記者の個性が出てしまう。日本のジャーナリズムも、日本の正しい姿を伝える努力をもっとする必要があるのではないか。ネットの世界、誤解が増幅される恐ろしい世の中だけに。

 

〔イギリス〕 土生 修一  読売新聞欧州総局長

(フランス) 吉田 徹   日本学術振興会特別研究員

(ドイツ)  福田 直子  ジャーナリスト

〔アメリカ〕 石沢 靖冶  前述     

 

                       ( 2008.07 )