閑中忙あり   [観たり・読んだり・歩いたり] 目次

久し振りの北海道

 

  今年の夏はとりわけ暑かった。家内とどこか涼しいところに旅をしようか、と言う事になり、ツァーガイドをめくってみた。涼しいところと言えばやはり北海道、しかし今年は天候不順で雨が多い。その時はその時までよと道東を中心とするツァーを申し込んだ。昔はレンタカーで道内あちこち走り回ったものだが、もうそんな元気はない。バスに乗って居眠りしていればいい。要所、要所で停まってくれる。ガイドの説明もある。

 

(札幌)

  二時間近くのフライトで機は無事新千歳空港に着陸した。直ちにバスで札幌へ。恵庭には勤務先の会社の工場があったので、時々訪れてことがある。この沿道でゴルフに興じたことも懐かしい思い出である。北海道のゴルフ場は落葉樹の大木が多く、ヨーロッパのゴルフ場と似た趣がある。秋は殊に美しい。

  やがてバスは札幌市内に入る。バスの中から市内観光。久し振りだが街はあまり変わっていないようだ。すすき野のホテルに旅装を解き、直ちに街に出る。旧北海道庁に行ったことがないので地下鉄で向う。なかなかの風格ある外観、木造のがっしりした建物。中に入ることが出来、会議室や資料室が公開されている。北海道開拓の歴史が偲ばれる。現北海道庁はすぐ後ろに建っている。新旧の対比が面白い。周囲は美しい庭園が広がっている。

  もう夕方なので、すすき野に戻り、小料理屋でホッケーを肴に一杯やってホテルに戻る。

 

(富良野、美瑛)

  7時半スタート。富良野に向う。生憎の小雨。上富良野のフラワーランドは、お目当てのラヴェンダーが残念ながらやや花期に遅く,少し枯れが来ている。遠くに煙る山々、点在する北海道特有の農家、百花咲き競うお花畑。しばし小雨の中、カメラを片手に歩き回る。

  バスは小麦やそばの畑を縫って進む。やがて美瑛に。パッチワークの丘の展望台に立つ。やはりラヴェンダーにはすこし遅いようだ。小雨煙る中、そばの花が真っ白く何処までも広がる。農家の赤い屋根、教会の尖塔が点在し彩りを添える。

  写真家、前田真三氏が全国を歩き、美瑛が一番美しいと言って、此処に居を構えたのもうなずける。   

 

  バスは旭山動物園に向う。本ツアーの目玉の一つ。いやはや驚いた、動物園は観光バスで埋まっている。なんでも今日一日で160台の観光バスがやってくると言う。この動物園、人が動物を見るのではなく、動物が自然に生活しているところを人に見てもらうと言うコンセプトに変えたところ大成功、入場者は激増、今では全国区、北海道観光の目玉になってきている。

  雨足が強くなってきた。斜面に作られた小さな動物園。コンセプトは良いが、なんとも人と動物のバランスが悪い。あちこちに行列が出来、どうしてこんなに人が集まるか不思議に思う。

 

  バスは山道を縫うようにして走る。北海道特有のエゾ松、トド松の林がつづく。やがて離合困難なわき道に入る。オンネトーという小さな湖に出る。青黒い水をたたえた不気味な静寂。酸性が強く魚は住めないという。

  少し暗くなってきた。バスは400キロの行程をこなし、阿寒湖温泉に着いた。もう遅いので湖は見えない。夜はぶらぶらアイヌの土産物店を冷やかす。以前来たときとあまり

変わっていない。

 

(摩周湖)

  翌朝は早発ち。バスは直ちに山道に入る。時折、エゾシカやキタキツネの姿が林の中に見え隠れする。観光客がどっと沸く。

  やがてバスは小雨降る中、摩周湖に着く。霧の摩周湖,よほどの幸運に恵まれないとその姿を拝むことは出来ない。ラッキー!それがなんと摩周湖全体が見えるではないか。対岸の山々も、湖中の島も。慌ててシャッターを切ることしきり。残念ながら観光客が撮影ポイントに群がっている。湖面に目をやるとなんとも荘厳な気持ちになる。北海道を選んだ甲斐がありました。

 

(知床半島)

  再び車中の人となり知床に向う。小麦やソバの畑が広がる。ジャガイモの花は少し遅くて残念。森繁の歌が浮んでくる。何でも森繁が知床でロケの打上げの時、献じた詩に後から曲をつけ、それを加藤登紀子が歌って広まったそうである。

  バスはいよいよ本ツァー最大の目玉知床半島に入る。羅臼から半島を横切り知床五個展望台に到着。熊が出るとかで、五湖のうち一湖しか見られなかった。羅臼岳が雲の間から顔をのぞかせる。静寂そのものの湖。ゆっくり湖を巡りたかったが、時間がなくて残念であった。山を降りてウトロ港に着く。いよいよ待望の観光船に乗っての岬めぐり。半島に沿って船は進む。今は夏で穏やか。流氷が流れ着く冬にやって来たらどんなであろう。

  半島は海に向って断崖になっている。所々に洞窟が見える。流氷と荒波によって削り取られたそうである。所々その断崖を滝が落ちる。かもめが何処までも船についてきて、観光客が投げる餌にたくみに飛びつく。何か観たような風景である。そうだいつぞやノルウェイのフィヨルドを観光したときの風景に似ているではないか。半島の先端はるか遠く知床岬が霞んで見える。森繁の歌が耳について離れない。

  下船してしばらく行くと大きな滝が見えてくる。オシンコシンの滝と言う。このところの雨の所為か、水量が豊富で、大きな岩に白く砕けて轟々と落ちてくる。知床めぐりも終わり、バスは再び山の中を走る。時折シカやキツネに出会うが一同見向きもしない。その時である、ガイドが大声で叫んだ。ヒグマ!ヒグマの子供が一頭草の中を歩いている。それを銃を持った管理人が追っている。なんでも空砲で驚かせ、山の中に追い返すのだそうだ。一同やっと納得、はるばる知床見物にやってきた甲斐があったというもの。

 

(層雲峡)

  やがてバスは深く刻まれた渓谷に入る。層雲峡である。大きな落葉樹が両岸を埋め尽くしている。新緑か紅葉の季節にやってきたらさぞ美しかろうと見入っていると、やがてバスは温泉街に入った。

  翌朝久し振りでゆっくり起きて再び渓谷に戻る。銀河の滝、流星の滝が林の中に見えてくる。対岸の切り立った大きな岩に沿って瀑布が美しい弧を描きながら落ちてくる。名前に負けない見事な滝である。

   

  バスは例によって、大型土産店によって新千歳空港に着いた。ここでも土産物のオンパレード。一同どっさり土産物を買い込む。

  かくして三泊四日1000キロに及ぶバスツアーは終わった。雨に降られたが、北海道は何処に行っても美しくわれわれ迎えてくれる。近頃外人観光客が増えていると言うのもうなずける。

 

                     ( 2008.09 )