閑中忙あり   [観たり・読んだり・歩いたり] 目次
          

ディア・ドクター

          

                  

  「家族に乾杯」。NHKで毎週放映される番組を興味深く観ている。鶴瓶が色々なタレントと二人で日本各地を歩き廻り様々な家族と出会う。よく日本の家族はもう崩壊してしまったとか言われるが、どうしてどうして、地方に行くとまだまだ昔の面影を残していて、心温まるものがある。親子三代、時には四代、立派に家を受け継いで守っている。

  鶴瓶は言いたいことずけずけ言うが、その人柄からか憎まれない。初対面の人が鶴瓶ペースに乗せられて、短い出会いを惜しんでいる。

  

  その鶴瓶が映画に、しかも主役を張って出演した。「ディア・ドクター」その役柄は田舎の偽医者である。正に鶴瓶ピッタリの役どころ、この映画の評判は上々で、多くの観客を集め、賞も取った。

  ある過疎の村の診療所に村長が連れてきた一人の医者がいた。田舎の事ゆえ、専門はなくどんな病でも診る。しかし大抵の病は、薬を飲ませ寝かせておけば直ってしまう。病が癒えれば村人は万歳万歳、先生の信頼は厚い。そこへ若い研修生がやってくる。研修生は都会の病院との違いに驚き、こういう医療も大切だと思う。

  或る時急患が運ばれてくる。医者は処置が分らない。ベテラン看護婦の指示に従い、何とかオペを済ます。オペは成功、村人は偽医者を絶賛する。

  やがて刑事がやってきて、村人に医者の素性を尋ねる。誰も知らない。実はこの偽医者は元製薬会社の営業マンで、職業柄、多少の医学の知識を持ち合わせている。偽医者は危機を悟って逃亡する。・・・・・

  

医師不足が叫ばれて久しい。医者が減ったのか患者が増えたのか、あるいは患者が老齢化して、たいした病気でもないのに病院通いする人が増えたのか。多分暇つぶしの老人が増え、病院がサロン化しているのではなかろうか。私は足腰が悪いので、時々近所の整形に通っている。何時行っても常連さんがいて雑談している。そこで国は老人のサロン化を防止すべく、後期高齢者と言う階層を設けた。これが大変に不評で、長い間お国のために働いてきた人を何と扱うかと言うことになった。

  人が大都会に集まるように、医者も大都会の設備の良い名の通った大病院に集まる。過疎の村に出向こうと言う医者は稀だ。中小の病院も人手不足で廃業に追い込まれていく。以前は大先生の下で学んだ医者の卵は、先生の指示で派遣された。今では自由である。又最近は緊急性が高い、トラブルの多い小児科や産婦人科は敬遠される。救急車のタライ回しが大きな社会問題になっている。

  近頃我が家の近くにやたらと開業医が増えてきた。しかし小児科や産婦人科は見当たらない。又殆どが住居と離れている。勿論往診はしない。僕等の子供の頃、午後は往診と言うことになっていた。人力車に乗って先生がやって来たものだ。

 テレビを見ていたら、あるコメンテーターの高校時代のクラス会の模様を映していた。その高校は東大の入学率が高いので有名である。驚いたことにメンバーの大部分が医者であった。クラス会では、社会に出ていろいろな職業に就き活躍している人が集まり、話が盛り上がるのであって、これでは医師会の会合みたいで、面白くもおかしくもない。

  幼いときから塾に通わせ、名門校に学ばせ医者にさせる。医者と言う職業はそんなに美味しい職業なのであろうか。

  医は仁術と言う。立派な医者も沢山いる。娘の友達に「国境なき医師団」に参加して、世界の僻地を回っている人もいる。又先端医療の分野で、これまで不治と思われていた病を治す神の手と言われる大先生もいる。そうかと思うと美容整形で億万長者のリストに載る大先生もいる、

  来年度の予算案が固まった。 病院の経営が苦しいといって、医療報酬が10年ぶりに1・9%上げられた。これから医療の問題は難しくなるだろう。アメリカでも政争の種である。国民皆保険を主張する民主党が長年の対立の中で、漸く法案が通したようだ

  わが国では国民皆保険の国であるが、これから過疎化と高齢化が一段と進行していく中で、医療問題は益々難しくなる.それにしても偽医者の話は時々報ぜられるが,患者の評判はいいようだ。これも恐ろしい話である。

                      ( 2010.01 )