閑中忙あり   [観たり・読んだり・歩いたり] 目次
          

阿修羅

          

                  

  少し前のことになるが、薬師寺の仏像が東京の博物館で展示されたことがある。日頃あまり仏像に縁のない東京の人が博物館に詰め掛け、長蛇の列を作ったと報ぜられていた。

  そしてこの成功に気を好くしたのではなかろうが、大和の仏像でもひときわ人気の高い興福寺の阿修羅が東京にお目見えした。これ又薬師寺を上回る人気、博物館は人垣で埋まったそうだ。その後阿修羅は九州に移り、大宰府の博物館に展示され、ここでも多くの人を呼び寄せた。(国立の博物館のあるのは、東京・京都・奈良・大宰府の四箇所)

  阿修羅はこれまで興福寺の国宝館のガラス・ケースの中に展示されていた。ガラス越しであるが、1メートル位に近寄って拝めた。奈良を訪れる観光客は東大寺に集まる。興福寺は比較的空いている。国宝館もゆっくり見学でき、阿修羅ともじっくり対面できる。

  今回はガラス・ケースではなく、興福寺の仮金堂(金堂は目下建設中)の中に設置された。やはりガラス・ケースの中で見る仏像と御堂の中で見る仏像は違う。我ら野次馬も、これまで何回も阿修羅とは対面しているが、やはり御堂の中の阿修羅を拝みたい。

  休日は避けて、平日に奈良公園に出かけた。公園は車で埋まっていた。我らが愛用している興福寺の駐車場は勿論満車。センターの大駐車場も同様。仕方なく公園のはずれの私設駐車場から,歩いてやってきた。

  阿修羅は長蛇の列、おまけに日陰がない。とても並んでいられない。隣で正倉院展をやっている。こちらはどうか。15分待ちという。さらば方向転換してこちらにしよう。

阿修羅はまた来ればいい。

  正倉院展には毎年出かける。今年の目玉は琵琶と鏡と伎楽面、それと光明皇后の直筆。特に琵琶は素晴らしく、当時の職人の技術の高さと、作りの丁寧さには頭が下がる。

  正倉院展は例年大混雑する。最前列は動かない。後列から頭越しに見ても良く見えない。毎年消化不良のまま引き揚げてくる。

  話は阿修羅に戻る。娘が期日がだいぶ進んだので、平日を選んでもう良かろうと出かけた。何でも90分待ちという。折角だからとがんばったそうだ。堂内は3重になっていて、最前列は立ち止まってはいけない。ゆっくり拝みたい人は後列から頭越しに拝むと言うことになっているとのこと。

  阿修羅は八部衆の一人で、九大弟子と共に並べられている。阿修羅は釈迦の説法を聞いて、仏法を守護する八部衆の一人となった。元々インドの神話では、戦いを好む帝釈天と戦闘をした。よく「阿修羅の如く」と言われるので、どんな恐ろしい顔しているかと思われるが、とても優しい顔立ちをして、少年のように可愛いい。それゆえか女性に人気が高い。三面の顔と六本の細い腕を持っている。眉間にしわを寄せて、今にも泣き出しそうな表情がなんともいえない。

  話は変わるが、唐招提寺が10年がかりで平成の大修理を終え、その美しい姿を見せた。大修理の間、その修理の様子を幾度か公開したので2度ほど見学した。千手観音の手を真近に拝むことが出来た。

  久し振りに目にした唐招提寺は堂堂として美しい。天平の甍、その大屋根は殆ど葺き替えられ、鳩尾も今回新しく作り直された。

  残念ながら,修理完成の法要が営まれていたので、招待客しか中には入れなかった。しかし一刻も早く観たいという人で境内は埋まっていた。勿論駐車場は満車。

  折角来たので薬師寺まで足を延ばした。こちらは東京の賑わいも嘘のように人影もまばら。えらい事になった。薬師寺の目玉、東塔がこのほど全面解体修理されることになった。既に足場が組まれている。調査用のものらしいが。この塔が再建されるまでには10年はかかる。再び見ることが出来ようか。

  阿修羅は3箇所合計で結局191万人の入場者があったそうだ。(奈良25万人)我々はいつも拝んでいるので、結局パスしてしまったが。これ程短期に沢山の人を集めた展示会も珍しい。どうも日本人には、話題に乗り遅れてはならないと言うところがあるようだ。それにしても、これまで興福寺の国宝館の阿修羅の前で人だかしているのを見たことない。そういうこちらも同様物見高いが、違うところは、並んでいるとすぐパスしてしまうところだ。

  近頃先着何名様に安売りするという広告が目に付く。開店前から大行列。先日もユニクロの銀座店で開店前に2000名の行列が出来たと報ぜられていた。行列の時間に時給を掛ければ値引きより高くなると思うが。

  来年はいよいよ平城遷都1300年に当たり、数々のイベントが企画されている。その大目玉、再興された大極殿は既にその雄姿を見せている。是非物見高い人が沢山見物に来て、天平の昔を偲んでもらいたいものである。

                      ( 2009.12.)