海外に暮らして

忙しく感じないのは何故 


夕方になって近くのショッピングセンターまで買い物に出た。朝から雲ひとつない青空が広がり、今日は一日暑くなるだろうなという予想通り、気温は30度近くまで上がった。夕食の買い物を済ませ、ついでにV&Dというデパートのバーゲンセールを覗き、ぶらぶらしながら戻ってきてちょうど1時間半。気晴らしと運動を兼ねた散歩にはちょうどよい距離だ。

ショッピングセンターは私の住むアムステルフェーン市の中心として、広場を囲むようにいくつかの建物が立ち並び、カルチャーセンターや図書館なども兼ね備えた複合的な機能を果たしている。普段は歩いてほんの数分という距離にある最寄のスーパーマーケットで十分用が足りるのだが、これでは散歩にならないので、時々少し遠くまで足を延ばす。どこへ行くにしても、交通量の多い道を通らずに住宅街の中を抜け、至るところに張り巡らされた水路の両側に広がる木陰の散歩道を歩いて、気分よく買い物ができる。

気分よい買い物の意味するところは、こうした行き帰りのリフレッシュだけではない。大体どこへ行っても人が少ない。デパートの中を歩いていても人にぶつかるほど混んでいたことは滅多にないし、支払いのためにレジに延々と並ぶというようなこともあまりない。今日は夕方の6時近くに外を歩いていたわけだが、ほとんど通行人を見かけない。勤め人はほとんどの人がすでに帰宅した後だったということもあるだろう、オランダ人の夕食は大抵6時ごろ始まるから、どこの家も家族そろって食卓を囲んでいる時間だったからかもしれない。日が長いのでバルコニーに出て読書や日光浴をしたり、庭で時間をかけてゆっくり食事をしている人も多い。

大体において、オランダで暮らしていると時間に追われているという感覚がない。オランダの人たちは中にはとても忙しそうにして分刻みで仕事をこなし、一日フルに動き回っている人もいないわけではないが、大抵の人は終業時間が来たらぴたっと仕事をやめるし、帰宅後はそれぞれ思い思いの暮らし方をして、決して周囲に流されているようなところはない。我が家の両隣りはいつも一家団欒、そこにはいつも「家族」がある。

若い人たちはこういったゆったりとした暮らし方では物足りないかもしれない。繁華街と呼べるような賑やかなところもないのだから、確かに刺激が足りないと感じるかもしれない。事実、若者は刺激を求めて隣町アムステルダムに集まるのだろう。

とはいえ、常日頃のこのゆったり感は一体どこから来るのだろうか。オランダはご存知の通り人口密度で言えば、世界有数の「人口過密」な国のはずだ。確かに、住宅街は同じような建て方の長屋形式や高層アパートがずらっと並んでいる。我が家もその長屋形式の一部で、小さな国オランダらしく、大柄なオランダ人にはさぞ狭苦しいだろうなという程度の間取りで、2階へ上がる階段などは手すりにつかまらないと足を踏み外しそうになるくらい、場所を節約している。こうして節約できる部分はできるだけ節約して、それをすべて庭や公共スペースとして緑豊かな広々した空間を作り出している。都市計画とは斯くあるべきという格好のお手本かもしれない。

こうした環境があって、仕事が終わったらわき目も振らずに帰宅して家族中心に暮らしていたら、それはゆったりできて当然かもしれないなと思う。我が家もまさにそのパターンになってきたということか。
(July 14, 2003)

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