海外に暮らして

注意されるということ
そのA 
いろいろありました・・・


人に注意するというのは、簡単なようで、案外難しい。まして人混みの中では、「あの・・・」と声を出すのも勇気がいるし、声をかけられた方も、それが自分にとってあまり心地よい言葉でなかったら、不愉快と感じるかも知れない。昨今の日本だったら、我が身の危険を覚悟していないと、おちおち善意の注意もできないらしい。

私が外国で最初に通りがかりの人から注意されたのは、初めての旅行先、ウイーンの町中。4月はじめの肌寒い日だった。2才になるかならないかの息子をだっこして歩いていたら、品のいい老婦人がつかつかと歩み寄ってきて、私の息子を指さしながら話しかけてきた。ドイツ語は分からないと見ると、今度は英語で。「いまはまだ冬ですよ、靴下をはかせないなんて、子供がかわいそう」 私は日本式に子供を裸足で育てていた。4月といえば日本の感覚ではもう春だから、子供が裸足でいることにそれほど違和感がなかったのだが、ウイーンではまだ真冬だ。

その時、私はどのように答えたのか覚えていないが、おそらく、そのありがたいアドバイスに対してろくに感謝の意も表せなかったと思う。いまならもう少しスマートに振る舞えたと思うけど。

こういった類の注意は、大なり小なり、いろいろな人から受けてきた。その都度、決していやな感じは受けなかった。知らないのはこっちなのだから、親切に教えてもらえてよかったと思う。

一度、フランス人の考え方に教えられたことがある。それは、小学校高学年になった子ども達二人と一緒に買い物していたときのこと。息子と娘は2才違いの兄と妹で、普段は仲がよいし、親の買い物にも我慢してよくつきあってくれる。時々、兄が妹にちょっかいを出して喧嘩になることはあったが。このときも私の用事で、とある店に入った。しばらく店内をうろついていたら、やおら女性の店員さんが息子に何か注意しているではないか。私はてっきり子ども達が店の商品にいたずらでもしているのかと思って、子ども達をしかろうとした。

ところが、そうではなかった。その店員さんは、しかったわけを私に話してくれた。兄が妹にちょっかいを出しているのを目撃して、女性を大切にしないなんて男として失格だ、と息子をたしなめたというのだ。
小学生の息子に対して、だ。小さいときからレディファーストを教えられるのが騎士道の国・フランスなのだなとその時、妙に納得した。
(Jan. 22, 2001)

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