海外に暮らして

郷に入っては・・・


オランダは今日も曇、時折晴れ間が覗くけれど、あっという間に雨雲が空を覆い、風が吹いて雨が降り出す。とても7月とは思えないような肌寒い毎日。日本式の四季の感覚には当てはまらない日が多くて、気分もさえない。最近は、まあこういうものだと諦めているけれど。

世界中の気候が違うように、人々の暮らしぶりもさまざまで、だからこそ旅するのは発見や驚きがあるわけだが、いざ暮らすとなると、物珍しさだけではすまなくなる。
When in Rome, do as the Romans do.
というわけである。周りの人を真似ているうちに、いつの間にかそれが身について、あたかもずっと前からそうしていたような錯覚を起こす場合も多い。その反対に、以前からやっていたことでも新しい土地にその習慣がなければ、あっさり捨て去ってしまう習慣もある。

環境への意識の高いスイスにいた頃は、ゴミのポイ捨てなどとんでもないことだった。従って飼い犬の糞の始末も飼い主の責任である。町の至る所に緑色の専用ゴミ箱が設置されており、ありがたいことにビニール袋まで備えてある。わが家の柴犬との散歩も、このビニール袋が必需品となった。なるほど、これはいい習慣だなと思った。そして、たまに日本に帰ると、実家の塀の前まどはご近所の犬たちの落とし物がそのままになっている。それを見て「なんで自分の犬の後始末くらいしないんだろう?」マナーに反する、なんて息巻いていた。母は毎回文句一つ言わずに掃いていたけれど。

ところが、である。オランダに来たら、ここはスイスとは反対なのである。人々は家の中をショーウインドウのように美しく飾っているし、清掃車はひっきりなしにアスファルトを洗って行くし、街路樹や植え込みの手入れ、芝生の刈り込みなど美観にはかなり神経を使っている人たちなのに、である。芝生の上を歩くときはしっかり足下を見て歩かないととんでもないことになるのが落ちだ。そんな国だから、スイス的公共心を身につけたはずの私も、「郷に入っては郷に従え」とばかり、犬の散歩も手ぶらでするようになってしまった。

停車中のアイドリング、排気ガス汚染の原因となるこのアイドリングも、スイスで暮らす間に必ずエンジンを切る習慣が身に付いてしまった。日本に帰ると、コンビニの前などに停車した車や積み荷を降ろしているトラックなど、ほとんどエンジンを切らずに排気ガスをまき散らしているのを見て、「全く、もう!」と首を振ったりしていたものだ。

そのスイス的エコロジーもオランダ人のエンジンつけっぱなしを毎日のように目にして、腹を立てる気もしなくてなってしまった。こういうことも「郷に入っては郷に従え」でよかったのだろうか。
(Aug. 15, 2001-revised)

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