小さな大国オランダ(オランダ外務省広報部外国広報課編纂、ハーグ、1997年)

教育

1813
年にオランダ王国が誕生して以来、政治はずっと、充実して優れた教育体制を整備する責任を負ってきました。これはしかし、オランダの教育が国家独占の国家統制教育ということではありません。
1848年に制定された憲法で所謂教育の自由が定められ、宗教、思想、教育理念に基づいた教育施設の設立が認められました。オランダにローマ・カトリック、プロテスタント、ユダヤ、イスラム、ヒンズーといった宗教や、シュタイナー、モンテッソーリ、イェナプラン、ドルトンプランといった教育理念を掲げる学校など、実にさまざまな学校があるのもこのためです。また、これらの宗教や理念を織り交ぜた学校もあります。政府(普通は自治対政府)が設立した学校は公共学校と呼ばれ、私営団体が設立したその他の学校は私立学校と呼ばれています。


オランダの学校は4分の3以上が私立学校ですが、一定条件を満たす限りどの学校にも国からの包括的補助金が支給されており、それぞれの学校はこの補助金を教育の財政に充てています。また、教員の給与は全国レベルで設定された給与枠に基づいて支給されます。政府が教育全体を監視しているのはいうまでもありません。オランダの義務教育年齢は5際から18歳ですが、最後の2年は部分的義務教育となっています。また、教育科目、狙いや達成水準などは教育の種類別に国が設定しています。政府はこれによって、卒業証書が王国内のどこであっても同じレベルであるよう補償しているのです。


1995年のオランダの教育費支出はGDPの5.6%でした。学齢児童・生徒の教育費は無料ですが、学校は親から課外活動のための献金を集める場合があります。ただし、その代わりに親には児童手当が支給されています。18歳以上の学生は、学費を支払わなければなりません。普通はどの学科の授業料も同額です。18歳以上の学生には全員、国から基本奨学金が支給されます。この奨学金には、学生あるいは親の収入とその学生の成績に応じて、学費ローンまたは融資の追加が可能です。また、18歳以上の学生は公共交通機関を割引利用できるカードが支給されます。


18〜27歳の年齢層の15.2%は全日制の、6.8%はパートタイム制の高等教育を受けています。オランダの学校、カレッジ、大学は、生徒や学生のための宿泊施設(キャンパスなど)のないものがほとんどです。オランダの教育施設には服装規定はなく、政府は特別な場合を覗いて、通学のための交通に関与することはありません。


ほとんどの国と同様、オランダの教育制度も初等、中等、高等教育の3段階に分類されます。オランダ語や全国で基本指導言語とされていますが、フリースラント語を話す住民が多いフリースラント州ではこの言語も指導言語に指定されています。


初等教育

オランダの初等教育(基礎教育と呼ばれる)は、4歳から12歳の児童を対象とした8年生教育で、子どもの感情、知性、創造性の発達と、充分な社会的、文化的、身体的能力を身につけることに重点が置かれます。各基礎教育学校は、政府が設定した規定に基づいて、独自のワークプランを立てます。

オランダ語、地理、算数といった正規科目だけでなく、水泳を含む体育の他、最終の2学年には英語にも力が入れられます。

子ども達のほぼ全員が基礎教育学校に通い、後に中等教育に進学します。


特殊基礎・中等教育

3歳から20歳までの精神・身体・社会的障害者には、障害者用の特殊学校があります。特殊学校では、これらの障害者が普通教育にできるだけ早く、できるだけスムーズに移行できるよう、普通カリキュラムの他に特別な配慮がなされています。政府は「また一緒に学校へ」と銘打ったプロジェクトを打ち出して、普通教育学校と特殊基礎教育学校の協力強化を図っています。


中等教育

中等教育は12歳以上の生徒を対象とし、
職業準備教育(vbo)


ジュニア一般中等教育(mavo)
シニア一般中等教育(havo)
中等教育大学進学コース(vwo)
の4つの過程があります。また、これらの課程を修了した後、中等職業教育(mbo)か中等職業見習いシステム(llw)にも入学することができます。

中等学校施設は、ひとつの学校内に上記の過程が幾つか共存する、所謂「共同体」の形を取っているものが多数あります。

vboとmavoの修学期間は4年で、これを卒業するとmboかllwに進学できます。havoは5年生で、修了者は高等職業専門教育学校(hbo)入学資格が得られます。また、vwoは6年生で、終了すると大学入学資格が得られます。vbo、mavo、havo、vwoの最初の3年間は共通の基礎課程で、生徒は15の必修科目を学びます。そのあとに進路を選択して就学を続け、それぞれの課程の卒業試験(政府の監視のもとに作成、実施される)に臨みます。また、卒業試験の前には、それぞれの学校が実施する校内テストがあります。オランダ語と少なくとももう一つの言語は卒業試験の必須科目に指定されています。17歳の生徒全員のうち97.7%は全日制中等教育を受けています。


mboあるいはllwの修了証書か推薦状があれば、オランダだけでなく他のEU加盟国でも自営業を設立できます。EU内では、この二つのコースのほとんど全ての課程について、相互認知の協定が成立しています。mboとllwの違いは、前者が全日制の学校教育であるのに対して、後者は企業・事業内での実地教育を受けながら通学する点にあります。


高等教育

高等教育には高等専門学校での高等職業専門教育(hbo)と大学での学術教育(wo)の二つがあります。修業期間は共に4年で、最高6年まで在学が認められます。1827歳の年齢層のうち、15.2%が全日制高等教育を、6.8%がパートタイム制高等教育を受けています。hboは職業実務での上級ポスト職員を養成するもので、そのための理論と実地準備教育が施されます。また、学術教育は自主的な研究者の養成、あるいは学術的な教育が要求される社会的ポストへの準備が主な目的です。また、教員養成もhboあるいはwo施設で実施されます。

大学は学術教育の他に、学術研究も行います。

4年間の第一段階を終了した学生は、専門分野を絞って、研究や博士号取得の準備をすることができます。


hboの卒業生は技師(ing)あるいは学士(B)の資格を、大学の卒業生は専攻によって技師(ir)、博士候補者(drs)、法学士(mr)の資格を獲得します。これらの資格の代わりに修士(マスター、M)を名乗ることもでき、学位論文を提出して博士課程を修了すれば博士となります。これらの資格は法律によって制定・保護されています。


成人教育

成人教育は、以上に述べた教育のほとんど全てを包含しています。全日制またはパートタイムの中等教育あるいは高等教育を、昼・夜間コースのどちらかで受けることができます。そして、この分野ではさまざまな大学教育課程を備えた通信大学(オープンユニバーシティ)が特に重要な存在となっています。


国際教育

基礎教育や中等教育の一部を外国で受けた子ども達のために、授業を全て英語で行う学校があります。また、高等教育においても、特に外国人の大学卒業生が英語(フランス語やスペイン語が可能な場合もある)で専門教育を受けられる教育施設が10校あります。