10年に一度の園芸博覧会「フロリアード」がオランダで開かれている。今年で5回目を迎えるフロリアードは毎回開催地を変えて行われ、今回はスキポール空港に程近いハーレマーメアで10月まで開かれている。"Feel
the Art of Nature"をテーマに、国内200社、40カ国が参加する見ごたえのある花の祭典だ。65ヘクタールに及ぶ広い会場内は三つのパートに別れ、それぞれ異なるアプローチで私達を楽しませてくれる。花の美しさはもちろんだが、新しい試みやユニークな展示なども随所に見られ、じっくり見ていくと興味深い。 全長2キロに及ぶ会場北口正面にまず見えるのは黄色い巨大な平屋根。100×278メートル、サッカー場4個分に及ぶ厚さ4ミリの強化ガラス製屋根は、世界最大と言われる19,000枚のソーラーパネルだ。その下に立って天井を見上げると、その巨大さを実感できる。発電能力は2.3MW、フロリアード会場全体の電力を賄っている。 この屋根の半分は屋内展示場、あとの半分は円形劇場を中心にしてそれを囲むように小川の流れやその両岸の自然を再現しており、雨天や暑い盛りの季節でも来訪者が快適に過ごせるように工夫されている。 さらに歩いていくと、今度はどこにでもあるようなビニールハウスが建っている。内部は新しい時代を予感させる温室のモデルで、トマトやパプリカがたわわに実る室内は養液栽培の未来像だ。環境に配慮し、エネルギー効率もよく、省力・合理化された栽培方法は野菜に限らず、さまざまな植物に応用されており、その様子を実際に目にする事ができる。 会場中央付近には、ちょうど見ごろに咲きそろった色とりどりの花で作られた花壇がある。花の種類や色が複雑な形に入り組んでいるのはなぜだろう。地上を歩いているときはそれとわからなかったのだが、近くの小さな展望用の建物の細い階段を上がって一番高いところから眺めてみたら、花壇の形はフロリアードのロゴである"Feel the Art of Nature"の文字を形作っているのだった。この展望台は"1994-2002 The Making of"と言って、製作に携わった96人の顔写真がずらっと並ぶ。そこにはフロリアード製作に費やされた資材などのデータが写真入りで展示されている。その中のいくつかを紹介すると、 ・ 会場内に植えた球根は100万個、花は18万本。 ・ 設計に用いたスケッチ用紙をつなげると全長6.5キロメートル。 ・ Big Spotter's Hill(中心にそびえるピラミッド型の高さ40メートルの丘)を作るのに運び込んだ土の量は500,000立方キロメートルで、トラック4万台分。このトラックを一列に並べるとパリまで達する長さになる。 現在のフロリアード会場と造成が始まる前の航空写真を比べてみると、このBig Spotter's Hill周辺の地形はすっかり様子が変わっている。現在はBig Spotter's Hillの周囲を池がぐるりと囲み、他の10個の正方形の島もすべて水路で区切られてオランダ特有の風情ある地形だが、このあたり一帯はもともと草の生い茂る陸地だったのだ。つまり、オランダ人お得意の掘ったり埋めたりという作業によって、景観をすっかり変えてしまった、それも手を加えたとは思えないほど自然に近い景観に。これだけでも膨大な工事だろう。計画がスタートした時点から実に8年がかりの壮大なプロジェクトになってしまうわけだ。フロリアードがなぜ10年毎なのか、これを見ると納得がいく。 膨大な工事といえば、このフロリアードのために道路も含めて新しく作られたZuidtangentと呼ばれるコミューターバスは必見だ(オランダ語独特の発音をちりばめてしまったこのバスの名称、世界中から人が集まるイベント向きではなかったのではないかと不思議でならないのだが)。朱赤とチャコールグレイのツートンカラーというモダンな外観の2両連結バスは、フロリアード会場とスキポール空港を結ぶ唯一のバス路線で、ハーレム市とアムステルダムのアムステル駅間を定期運行する新しい路線だ。ほとんどの区間は他の一般車両と完全に分離されたバス専用路線を猛スピードで飛ばす。10分ごとの運行というのも便利だ。フロリアードのチケットを見せると無料で乗せてくれるというサービスもあるらしいが、これは試していない。何しろ会場へは毎回マイカーで行ってしまうものだから。 会期中、いくつかの国のナショナルデーが設けられている。7月16日はジャパンデーだった。日本の展示は屋内展示場の中ほどにある。それほど広くないスペースだがそれを上手に使って、毎回異なるテーマで美しくまとめている。今回のジャパンデーにはフラワーアレンジメントのコンテスト受賞作品や田代早苗さんによるネイルアートの実演と作品が並び、アメリカ人の日本画家アラン・ウエスト氏によるデモンストレーションが行われるなど、観客の関心を呼んでいた。また園内最南部に位置する日本庭園は日本政府の肝いりで丁寧に作られ、湖に面した石庭や一段高い場所に設けられた四阿と路地風庭園が涼しげで、アジアゾーンにありながら他の参加各国のパビリオンとは一線を画している。私は見られなかったけれど、そこでもさまざまな催しが行われ、人気を博していた由。この日にフロリアードを訪れた人は幸運な人だったに違いない。 |
|
||||||