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7月の日本の参議院選挙結果からみえてきたこと★
恭子:予想投票率が非常に高かったにもかかわらず、実際の投票率は56.44%と過去3番目の低水準に終わりました。バブルがはじけて10年近く経ち、デフレ不況の真只中に行われた今回の参議院選挙ですが、いくつか新しい現象が見えてきました。
京子:わたしも在外投票制度ができたので、勇んで投票に行きましたが、周囲の日本人の間では全く関心が薄かったのが残念でした。ところで日本の投票率も低かったですね。
恭子:そうなんですよ。実はね、選挙前に23才位の若い女性が4人我が家にいらした時、”皆さん選挙いらっしゃるの?”って聞いたら、お互い顔を見合わせながら、結局誰もはっきり返事しなかったんです。興味無さそうな雰囲気だったので、”小泉さんて若い方達の間ですごい人気なんですってね。”って重ねて聞いたら、少し白けたような感じで、間を置いてから、”ヘアースタイル格好良いよね”って言ったんです。この娘達のリアクションと選挙前の報道とかなり温度差があったので、投票率には興味を持ってました。それでね、マスコミの報道ってあてにならないなって感じました。
京子:今回の選挙、これまでと違う点はどんなところでしょうか。
恭子:非拘束名簿方式全国区比例代表制という新しい選挙制度の下で行われた初めての参議院選挙だったわけですが、その結果からみると、投票用紙に候補者の名前より政党名を書く人の方が圧倒的に多かったんで、小党には不利な制度だなと思いました。又、政党名で投票する人が多いということは、党首が誰であるか、その党首への国民の人気が党の得票率に直接結びつくこともはっきりしましたね。
京子:党首と言えば、小泉首相の人気はすごかったですね。
恭子:小泉首相の人気が高かったのは事実ですが、それを助長したのはテレビを中心とするマスコミだったと思います。ニュース番組やワイドショーで小泉首相の顔や言動が報道された時間数が圧倒的に多く、野党の党首が報道された時間が極端に少なかったと思います。だから、ひとつには、迷っていた選挙民は結局自民党に入れたんだと思われてなりません。つまり、小泉首相に対する反対意見があまり国民の耳に入らなかった気がします。
京子:それはちょっと危険ですね。
恭子:全くです。これからITの時代になって、いろいろな情報がどんどん入ってくる時代になるわけですから、政治に限らず全てのことに対して国民は、自分の頭で考え、判断し、行動する必要があると思います。マスコミに流されるのは危険だと思います。
京子:また非拘束名簿方式の話題に戻って、これまで何回か行われた拘束名簿方式よりは小党にもメリットがあったのではありませんか? 海外からは逆に、候補者の情報が少ないので、あまりメリットはありませんでしたけど。
恭子: 非拘束名簿式では、個人名でも投票できるので、知名度の高いタレント候補が有利とみられていました。確かに一部のタレント候補が上位当選を果たしましたが、作家やスポーツ選手等、名前の売れている候補を多数擁立した自由連合はただの一人も議席を得ることができませんでした。今回の選挙では、政党名での得票が比例代表得票総数の約60%にのぼりました。その結果、政党の集票力の方が個人の知名度よりも選挙結果を左右することになったのです。だから、やはり小党には不利だったと思います。
京子:他に特徴的な点はありましたか。
恭子:統計的な観点からみると、先ず、戦後生まれの当選者が初めて過半数を超えたことでしょうね。第二に、これは特に注目すべき事実だと思いますが、与野党を問わず、組織をバックに持つ候補の集票力が大幅に落ちていますね。1980年の選挙時と比べ、有権者数は増えているのに、各団体の組織候補の得票数は半分以下。半分以下というよりは、ほとんどの場合、3分の1以下でした。組織とは、例えば特定郵便局長会(自民党支持)、遺族会(自民党支持)、医師会(自民党支持)、自治労(元社民党支持/現在民主党支持)、自動車総連(民主党支持)、ゼンセン同盟(民主党支持)等です。連合などは840万人もの組合員をかかえているのに、選挙結果からみると、その組織力の貢献度は低かったようですね。
京子:新しい流れは感じましたか。
恭子:国民に大人気の小泉首相が、自分を党首に選んだ自民党を批判し、党を改革することをスローガンにして国民にアピールしたことも過去には見られなかった現象でしょうね。それで、自民党を支持しないけれども小泉首相を支持する有権者達は最後まで迷いました。それでも結果的には、通常無党派層とよばれる人達の多くが自民党に投票し、自民党を大勝利に導いたわけです。これも新しい流れと言えるでしょう。
民主党から立候補しトップ当選を果たした大橋巨泉氏は、「国民の不満や希望を解りやすい言葉で伝えたいから立候補したので、立候補する党名にはこだわらなかった。たまたま民主党からお誘いがあったので民主党から立候補したまでのこと」と語りました。社民党から立候補し当選した田嶋陽子氏も、土井党首から3年にわたり強く勧誘されたのが社民党を選んだ理由であり、当選後、社民党を改革しなければならないと言っていました。このように、今回当選した議員達から明確な政策の差が感じられず、特に所属政党にこだわらないのも新しい動向のように思います。
京子:今回の選挙の有権者の投票行動や、当選議員達の現象から新たにどのような傾向が見えてきましたか。
恭子:日本も自由主義や社会主義を超えた第三の政治思想を模索し始めたのではないかということ。そして、この動きが、現在の日本を取り巻く極めて困難な経済情況を乗り越えていく方策を、苦しみながらも模索したり実行したりするうちに、政界編成という形で新たな政治勢力を生みだすきっかけになる予感がします。
第三の政治思想を追求した結果生まれた政権という点では、イギリスやオランダ、スイスなどが先を行ってますね。雇用問題の解決策などで、ワークシェアリングをいち早く取り入れたことで最近よく引き合いに出されるオランダの実状をちょっと聞かせて下さい。
京子:「オランダではワークシェアリングが進んでいる」と私もよく耳にしますね。私の家の隣人は両隣りともその典型と言えるかも知れません。
恭子:お隣さんたちはどのようにワークシェアリングしているのでしょう。
京子:エヴェリンとエドワードにはまだ小さい二人の子どもがいます。 オランダ人の夫は大抵日曜大工が得意で、エドワードもよく働いていますよ。庭先にある物置にはあれこれと工具が揃っていて、休みの日はせっせと大工仕事に精を出している姿をよく見かけます。最近の彼の大仕事はなんといっても床暖房を組み込んだことでしょうね。大がかりな工事を一人でこなせるのは、週休四日、つまり月・水・木の三日間だけ働いているからなのです。エヴェリンは月・火・水・金と四日働いています。二人とも仕事に出てしまう月曜と水曜は子ども達を近くの保育園に預け、それ以外の日は休みを取っている方が子どもの面倒を見ています。
恭子:二人ともパートタイムだけど、二人あわせたら一人がフルタイムで働くより収入も多いし自由度の面でも歓迎できますね。
京子:もう一軒のお隣さん、リアは専業主婦でしたが、子ども達も大きくなり、時間ができたのを機に、最近また働くようになりました。ご主人のトムはフルタイム。リアの勤務先は自転車で10分ほどの距離にある広告代理店です。リアは子どもができるまで働いていたので、またその仕事を続けたくて、人材派遣会社に登録したそうです。現在はフレキシブル契約で呼び出しに応じて働いています。私は生活スタイルに合わせた彼等の働き方を見て、なんと柔軟なやり方だろうと感心させられましたが、それと同時に、仕事を分け合うことで仕事の流れや効率に影響ないのだろうか、と疑問も沸いてきますね。
恭子:パートタイムで働く人が多いのですね。この言葉には、正規雇用(フルタイム労働)とは労働条件、社会的認知度などで差があるものだというイメージがありますが、どうなんでしょうか。
京子:2000年度の統計では、約42%がパートタイマーですね。オランダでは96年以降、労働時間差差別の禁止が法律化され、パートタイムは個々人の都合で選べる働き方のバリエーションの一つという捉え方になりました。ですから、賃金や付加給付が平等に取り扱われるだけでなく、休暇制度、(民間)年金制度などにも差はありません。勿論、ここへくるまでには、それまでの経緯や長年の努力、税制の整備、オランダ人の持つコンセンサスなど、パートタイム導入を成功に導く要因は数々あるわけですが。
恭子:パートタイム労働、そこから発生するワークシェアリングによって、オランダでは、どのような効果がありましたか。
京子:一つのポストを二人で分け合ったりすることで雇用が増え、その分失業が大幅に減りました。数字で示すと95年8%だったものが、2000年には4%でした。特に女性だけに限るともっと顕著で95年11%から2000年は5%に下がりました。その結果、失業保険の拠出をはじめ、社会保険で生活する人の数が少なくなり、財政負担も減少。経済成長による税収増と共に、財政赤字は急速に減少し、99年には黒字に転換しました。
恭子:企業側には何かメリットがあるのでしょうか。
京子:パートタイムがフルタイムと労働条件に差がないとなれば、人材にも差が無くなり、企業は季節的あるいは時間的な必要に応じて有能な人材を確保できるようになり、雇う側にとって大きなメリットではないでしょうか。長坂寿久著「オランダモデル」によれば、二人の別々の能力を一つの仕事に同時に活用できるという別のメリットも見いだされているようです。最近は電子メールが普及して引継の齟齬なども問題にならないようです。
無理して二人がフルに働くのではなく、家族構成にあわせて家庭を大切にしながら、働き方を選べるとなると、日本の現状も変わってくるのではないでしょうか。たとえば、夫婦二人が同じようにフルタイムで働けば、その分家庭にしわ寄せが来ることは否めませんが、だからといって保障された仕事を得るためや、認められる仕事をするためには頑張るしかない、そういったジレンマをこの方法で解決できそうに思います。これによって、専業主婦が労働市場に入りやすくなり、しかもこれまで一家の稼ぎ手として朝から夜遅くまで働かざるを得なかった「お父さん」達がもう少し自分の時間を持てるようになるでしょう。
恭子:そういうお話を伺っていると、失業率を減らすため、財政赤字を減らすため、国は何をしなければならないのか、そして、企業や国民とはどう協調していけばいいのか、という発想からワークシェアリングが始まったように思えます。これが日本だったら、こういう法律があるからこれは出来ない、組合が反対するからその考えは無理、とか、そういう発想になってしまう感じがします。今、日本がオランダに学ぶべき事は、問題が提起され、目標が設定されたら、実行を妨げるものを考えるより、如何に目的を実現するか前向きに考える、そういう発想法というかアプローチの方法でしょうね。
政治は大多数の国民の最大限の幸福と利益を追求するのが一番大切な目的だと信じています。この目的に向かって、日本は構造改革を是が非でも進めてほしいと願います。構造改革とは、一言で表現するならば、「超越」と言えると思います。
京子:それはどういう意味でしょうか。
恭子:例えば、最近、日本の多くの企業で支払われている配偶者手当てを廃止する動きがありますよね。一部の労働組合の中からもこの動きが出てきていますが、共働きの世帯が増えた世の中の動きを反映した変化でしょう。こういう動きがこれからどんどん増えるのではないでしょうか? 政治や政府はこういう新しい世の中の変化がスムーズに行われるよう法律を改正したり、様々な制度を改革すべきだと思います。この時、良い案の提示があれば、野党からの提案であっても、国民の幸せのためにどんどん積極的に取り入れて欲しいと思います。小泉政権には従来の自民党にはなかった、国民が本当に望んでいるやり方を期待しています。
所属政党の枠とか、労働組合のしばりとか、従来の慣習とか、そういった数々の枠とか垣根とかを超えて考え決定し、行動する。それを阻む規制があれば撤廃し、新しい体制を確立する。そういうことを、そういう方向を国民が望んでいるのだと思います。